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2006.07.21

内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する一考察。

◆陛下(昭和天皇)のスクープで、すったもんだの大騒ぎだが、それはさておき陛下について私が覚えていること。

日経のスクープで大騒ぎである。靖国問題はひとまず、脇によけて、私が知っている、または覚えている昭和天皇に関する話をすこし書きたい。


若い人は、昭和の天皇陛下があまり記憶に残っていないかも知れない。

昭和30年代から40年代に生まれた人まではそれぞれ程度の差こそあれ、かなり鮮明に陛下の映像を記憶しているのではないか。

昭和天皇は、誤解を恐れずに言うならば、明らかに一般人と一線を画すやんごとなきお方だった。

いつもは、何だかいつも眠そうで、一体何を何処まで分かっておられるのかと、子供心に思ったが、

大人になってからいろいろな本を読むと、政治・経済をはじめ、非常に世情に通じておられたことがわかった。

それを知りたければ、毎日新聞の元編集委員、岩見隆夫氏の陛下の御質問を読むことをお薦めする。


◆天皇陛下が凍っちゃった、札幌オリンピック。

他愛の無い話では、1972年2月札幌オリンピックの開会式は陛下のご臨席を賜り、天皇陛下は開会宣言をなさったのだが、

センテンスがヘンなところで区切れ、私は失礼ながら、笑ってしまった。

あまりにも寒いので(無論、充分に防寒していたのだが・・・)天皇陛下が凍っちゃったのである。



もう一つは、ご在位何十周年かの節目に日本の主なメディアを大勢集めて記者会見を行ったことがある。

戦争責任云々は面倒くさいから省略する。

面白かったのは、陛下のプライベートに関わる質問で、どこかの記者(と言っても陛下の記者会見だから、デスクか政治部長クラスだと思う)が、

「陛下、お好きなテレビ番組はおありですか?」

と訊ねた。すると天皇陛下はニコニコしながら、
「好きなテレビ番組はありますが、放送会社の競争がはなはだ激しいので、どの番組を見ているかは・・・言えません」

と笑いながらおっしゃった。記者たちも皆、爆笑した。懐かしい。


◆内閣総理大臣の靖国参拝の是非に関する私見

この問題を論ずるとき、世間はあまりに情緒に傾いた主張をするのに驚く。

大きく分けると、


  1. 外国の反応に反発するもの、或いはこれを考慮すべきだという考え方。

  2. 靖国神社には東京裁判でA級戦犯とされた人々が神様として合祀されている。数百万人が死んだ太平洋戦争を始める決定をした人々を神様として祀っている場所を首相がわざわざ訪れて、神道の儀式にのっとって、敬意を表するのは「当然だ」又は、「いや、けしからん」


という二つの判断基準が主流である。



私は、いずれも肝腎な点を見逃していると思う。

内閣総理大臣の靖国参拝はまず、日本国憲法第20条第3項「国の宗教活動の禁止」に抵触しないかどうかを考えるべきである。
日本国憲法第20条第3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。


◆司法が「違憲だ」と判断したのであるから、行政府はこれに従うべきである。

日本は封建社会ではなく、近代国家であるから、三権分立が大原則である。

そして、法令、処分等が憲法に適合しているか否かを審査する権利は裁判所に与えられている。

日本国憲法 第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

ここでは最高裁判所のみについて言及しているが、それは、最高裁が合憲性を判断する「終審裁判所」、つまり最終的に判断するのだ、という意味であり、

下級裁判所(高等裁判所、地方裁判所など)が違憲審査権を持たない事を意味するものではない(最大判昭和25年2月1日では、下級裁判所に違憲審査があることを肯定している)。



昨年9月30日大阪高等裁判所の判決(大阪高等裁判所 平成17年09月30日 平成16(ネ)1888 損害賠償請求控訴事件)は極めてはっきりと、小泉首相の靖国神社参拝は違憲である、との判断を示している。

リンク先を見れば分かるが、PDFファイルで34ページ、

テキストファイルにして文字数を数えたら、原稿用紙(20×20)186枚分に相当する「大作」である。

無論、判決文が長ければ良い判決とは限らないが、大阪高裁の緻密な論理の展開は殆ど「感動的」という形容が当てはまるほどであり、

裁判官がこの判決文に注いだ、使命感に由来する情熱が、ひしひしと感じられる。

長大な判決文の一部を引用する。
愛媛玉串料違憲訴訟において,上告審判決は,玉ぐし料の支出という現場に出向かない行為ですら,県が靖國神社との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持ったことを否定することができないと断定している。この玉ぐし料の支出との比較からすれば,国民と世界が注視している中で,被控訴人小泉が内閣総理大臣として行った本件各参拝ではなおのこと,被控訴人国が靖國神社との間にのみ,極めて意識的に,特別のかかわり合いを持ったことを否定することができない

以上の事情から判断すれば,被控訴人小泉が被控訴人国を代表し内閣総理大臣として靖國神社に本件各参拝をしたことは,愛媛玉串料訴訟上告審判決が県の玉ぐし料支出を宗教的活動と判断したよりさらに明確に,その目的が宗教的意義を持つことを免れず,その効果が特定の宗教に対する援助,助長,促進になると認めるべきであり,これによってもたらされる被控訴人国と靖國神社のかかわり合いがわが国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであって,憲法20条3項の禁止する宗教的活動に当たるというべきである。

このとおり、「首相の靖国参拝は違憲である」との結論を出している。

この判決が出たときに、「主文ではなく、傍論だから法的拘束力はない」とバカな産経新聞の論説が書いていたし、

ブログの世界でもこの手合いが大勢いた。

それは、日本が「付随的違憲審査制」を採用しているから、そうならざるを得ないのだ。

なお、この件については、以前、詳しく説明したので、ご参照頂きたい。



話を戻す。

司法が行政府(内閣)の行為を「違憲だ」と判断したのであるから、三権分立の国家統治体制を破壊するつもりで無い限り、行政府は司法の判断に従わねばならぬ。

つまり、小泉首相は靖国神社を参拝してはいけないのである。議論の余地は無い。

小泉首相が大阪高裁の判断を無視して、靖国参拝を続けるのは、内閣総理大臣自ら「裁判所の判決には従わなくても構わない」と国民に告げているに等しい。

こうなったら、日本は法治国家ではなく、何でも内閣総理大臣の一言で決まる国となる。北朝鮮にそっくりではないでしょうか?

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コメント

トラックバックありがとうございました。 ジジイ放談のiitai-hodaiです。
お返しのTBを数回送ったのですが、送信失敗のエラーが出てTBできません。

ジジイ放談
この頑なな拘りはなに? 首相靖国参拝
http://iitai-hodai.seesaa.net/article/22287538.html

投稿: iitai-hodai | 2006.08.16 10:34

郵政民営化選挙での「謎の《小泉》大勝」は、後で分析してみれば、それなりに納得できるものがあります。弱者にされている若い世代が、その閉塞感・絶望感をごまかすために強者におもねり一体化することで自分を強者だと思い込もうとしているのでしょうね。

具体的な改善の方向性やステップが見えていて、努力をすれば何とか改善できる実感があれば、そんな精神状態にはならないのですが、そうなってしまっていることに現在の日本の状況の深刻さが感じられます。E・フロムの『自由からの逃走』と同じ構造であり、それはマイケル・ムーアの映画「ボーリング・フォー・コロバイン」や「華氏911度」で映像化されているアメリカの現実とも共通しているものです。

まあ、絶望して後の世代の未来を閉ざすわけには行かないので、少しでも長く、大きく、頻繁に、声をあげ続けていくしかありませんが……。

投稿: TAC | 2006.07.22 14:40

TACさん、はじめまして。JIROです。
貴重なコメントをありがとうございます。

>日本の政治屋というか権力者たちは、基本的人権というものが弱者にこそ保障
>されるべきものであるという根本というか基本をわかっていない、というかわ
>かろうとしない。しかもそれを捻じ曲げて言い逃れをしようとする傾向がある
>ようです。

そのとおりですね。
昨年暮れに無くなった後藤田正晴さんは、特に小泉政権になってから、「政治
があまりにも強者の論理に立ちすぎる」といい、

「やはり、どんな時代になっても、立場の弱い人、気の毒な人は出ている。
ならば、そういう人に対して、政治の光をどう当てるかということは、
政治を担当する者の大きな責任だと思う」

と言う言葉を遺しています。
(「日本への遺言」毎日新聞社刊)
http://mooo.jp/2jjs

小泉首相に読ませてやりたい言葉ですが、特にあの人は、自分に都合が悪いこ
とは自動的に意識からシャットアウトしてしまう(一般社会にもいますが)タ
イプの典型のような人間ですから、非常に始末が悪いというか、どうしようも
ない。

>首相や国会議員の神社参拝(特に公式参拝)は、われわれ非神道の宗教の自由・
>内心の自由を侵害している(古代の神道の発想は一部好きですが…)という事実
>を、マスコミは取り上げませんねえ。

本当にそのとおりで、大阪高裁も判決文でそのことを指摘しています。

>被控訴人小泉が,靖國神社以外の宗教団体,神社,仏閣等に公的参拝したこと
>を認めるに足りる証拠はないことも考え合わせると,本件各参拝が,国又はそ
>の機関が靖國神社を特別視し,あるいは他の宗教団体に比べて優越的地位を与
>えているとの印象を社会一般に生じさせ,靖國神社という特定の宗教への強い
>社会的関心を呼び起こしたことは容易に推認されるところである。
>
>これに加え,上記2(1)エ認定のとおり,本件第1参拝の行われた平成13年
>8月には,靖國神社に例年より多くの参拝者があり,そのインターネットホー
>ムページへのアクセス数が急増したことによっても,本件各参拝が被控訴人靖
>國神社の宗教を助長,促進する役割を果たしたことが窺える。

そして、TACさんがおっしゃるように、マスコミが分かっているくせに、この
問題点をわざと避けています。国家権力におもねるのもいい加減にしろと言い
たいです。

有権者に至っては、昨年の「郵政民営化選挙」であきれ果てました。
北朝鮮に拉致されている、日本人がいる、財政も破綻寸前、憲法改正を本気で
考えている政治家がいるときに、「郵政民営化だけが、焦点なんです!」と、
バカの一つ覚えの如く繰り返す首相を支持する神経が信じられませんでした。

どうも困った国だというご意見に同感です。

やはり、そもそも基本的人権はフランス革命で民衆が権力と闘争して「獲得」
したものですが、日本では市民革命の歴史はなく、人権は単に「輸入」された
概念なので、

日本人にとって人権とは「放っておいても当然存在しているもの」であって、
「守るもの」、という意識が希薄であることも、国家権力が跋扈する一要因に
なっているかと思われます。

今後ともよろしく御願いいたします。

投稿: JIRO | 2006.07.22 14:22

初めてコメントさせていただきます。
日本の政治屋というか権力者たちは、基本的人権というものが弱者にこそ保障されるべきものであるという根本というか基本をわかっていない、というかわかろうとしない。しかもそれを捻じ曲げて言い逃れをしようとする傾向があるようです。
首相や国会議員の神社参拝(特に公式参拝)は、われわれ非神道の宗教の自由・内心の自由を侵害している(古代の神道の発想は一部好きですが…)という事実を、マスコミは取り上げませんねえ。
これは権力者の問題であると同時に、それにおもねり本来の役割を見失って暴走しているマスコミの問題でもあると思います。
津地方検察庁内・勤務時間内での職員の差別発言とそれに対する抗議を受けた際の検察上層部の対応を複数の新聞社に知らせましたが、結局、動かなかった…などということもありましたし。
困った国です。我が祖国は。

投稿: TAC | 2006.07.21 17:09

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