「『将軍様はお忙しい』=金総書記のNYフィル公演欠席-北朝鮮文化相」←招待したのは北朝鮮なのだ。
◆記事:「将軍様はお忙しい」=金総書記のNYフィル公演欠席-北朝鮮文化相(2月27日12時0分配信 時事通信)
【ワシントン26日時事】27日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)によると、
北朝鮮の姜能洙文化相は、平壌で26日行われたニューヨーク・フィルハーモニックの公演に金正日労働党総書記が姿を見せなかったことについて、
「わが将軍様は大変お忙しい」と語った。
同紙が平壌駐在外交官の話として伝えたところによると、金総書記は当初、鑑賞を検討していたが、
米政府高官が出席しないことが判明したため、見送ったという。
一方、姜文化相は北朝鮮のオーケストラを米国に派遣する用意があると述べ、北朝鮮楽団の答礼訪問実現に意欲を示した。
◆コメント:音楽が政治に利用された例は過去にもあるが、止めて欲しい。
政治と関係の無い人間の営みで政治に利用されやすいのはオリンピック及びその他のスポーツの世界的な催しであろう。
スポーツの目的は「勝つこと」である。有り体に言えばスポーツは「ルール」という枠組みの中で、「ゲーム」や「レース」などの形式を装った、
「公認のケンカ」である。自国で、大きな催しを行い、自国チームが他国を破れば、国威発揚に繋がる、ということで、昔から政治に利用されてきた。
これに対して、芸術である音楽は、その本質から云って、「勝ち負け」とは関係が無いから、スポーツほどは、国家・政治に利用されにくい。
しかし、この点に関してはマズいことに、「コンクール」という、「勝ち負け」に近い結果をもたらすシステムが音楽には存在する。
かつて、ソ連という国が存在していた頃、長い間、アメリカとソ連が二大超大国であり、これを軸にした「東西冷戦構造」が長く続いた。
そんな折、1958年に、「チャイコフスキー・コンクール」が創設された。
その、第一回目のピアノ演奏部門で、アメリカのクライバーンというピアニストが優勝したのである。
そのことに関しては、チャイコフスキー・コンクールでいつも審査員を務めている中村紘子さんが、著書、「チャイコフスキー・コンクール」で詳しく書いている。
それまで、クライバーンは全然有名なピアニストではなかったのである。
私とて、その当時は生まれておらず、本選当日の演奏を聴いた者ではないが、審査員の一人、世界のリヒテル(というピアニスト)が、
クライバーンにだけ満点の25点を付け、他の出場者全員に「0点」を付けた、等という話を読むと、どう考えても、冷戦の緊張緩和に、
音楽が利用されたとしか思えず、私は音楽を愛する人間として、生まれる前に起きた出来事とは云え、誠に不愉快である。
◆(余談ですが)NYフィルは「ニューヨーク・フィルハーモニック」が正しい。
長い間、日本では、「ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団」と訳されていたが、本来の名称は、
New York Philharmonic
であり、管弦楽団に相当する「Orchestra」という単語はどこにもない。これが、New York Philharmomicのオフィシャルサイトだ。
少し、話が逸れる。
非常に意外な印象を受けるが、創立は1842年で、これはウィーン・フィルと同じである。
但し、ウィーン・フィルはウィーン国立歌劇場管弦楽団の有志が謂わば趣味で運営しているオーケストラであり、
ウィーン国立歌劇場管弦楽団の大元を溯れば、ハプスブルク家の宮廷楽団ということになり、正式な創立年月日など分かりようもないが、
16世紀初めか、15世紀終わり頃になるだろう。従って、ニューヨーク・フィルハーモニックとウィーン・フィルを同列に論じることは出来ない。
さて、それはさておき、ニューヨークフィルが平壌公演を行い、1500人の聴衆の前で演奏したとのことだ。
それは、それで、結構だが、北朝鮮が音楽好きだからといって、核兵器の開発を止めた訳ではない。
一回、自国を「悪の枢軸」呼ばわりした、アメリカのオーケストラを寛大にも招待した、というところを見せたかったのだろうか。
最初にこの話が有ったのが、昨年8月半ばで、最終合意が11月である。
◆記事:NYフィル:平壌公演合意 金総書記出席も--来年2月 (毎日新聞 2007.11.06)
【ニューヨーク共同】米国の名門オーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニックの北朝鮮訪問計画で、
ニューヨークフィル側が来年2月下旬に平壌で公演を行う日程で北朝鮮文化省と最終合意したことが4日、分かった。
複数の関係者が明らかにした。同フィルの北朝鮮公演は初めて。今月中旬に正式に発表する予定。
関係者によると、公演は同フィル音楽監督のロリン・マゼール氏が指揮し、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が出席する方向で調整中という。
平壌公演は、今夏に北朝鮮の金桂冠(キムゲグァン)外務次官が提案。ヒル米国務次官補が計画を推進した。
過去の記事を読むと分かるのだが、昨年8月の時点では、NYフィル側もどうしたものか当惑気味だったのだ(はっきり云って断りたかった)。
しかし、金桂冠(キムゲグァン)外務次官が非常に熱心に要請を繰り返し、コンサート当日には金正日も来る予定だ、というから、
NYフィルも重い腰を上げて、様子も分からない北朝鮮に来てくれたわけでしょう。
おっかなかったと思いますよ。そりゃ、「大歓迎」するだろうけど、何考えているか分からない国だから。
北朝鮮の外交筋が将軍様に無断でそんなことをすることがあるわけはないのであって、全て状況は逐一「将軍様」に報告されていたはず。
それでいて、金正日欠席って、失礼だろ。謂わば国賓だぞ。
New York Philharmonicのサイトにも、コンサート成功、とか、無難なことが書いてあるけど、それはそう書かざるを得ないだろう。
金正日さんもどうせ遅かれ早かれ死ぬわけだが、何でも世界が自分の思い通りになると思うなよ。
自らの影響力を誇示せんが為に、芸術家の集団を呼んで、無理矢理かき集められた1500人の聴衆がそれを聴く。
しかし、自分がわざわざ聴きに行くほどのものじゃない、というポーズをとる。
餓死者を200万だか300万だか出している国の親玉のくせに生意気なんだよ。
芸術を冒涜するな。
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コメント
あつし様、いつもコメントをありがとうございます。
>「将軍様」と6ヶ国協議の交渉担当者が、北朝鮮と米国の雪解けムードを演出しようと
>して音楽を利用し、そしてこの「将軍様」は、さらに自分を誇示する手段としてに公演
>を「欠席」するという、ニューヨークフィルに対して大変失礼なことをしたわけです。
正にそのとおりです。6カ国協議において、北朝鮮が融和的になっている、と言いたいなら、
金正日自ら、ニューヨーク・フィルハーモニックと指揮者のロリン・マゼールを歓待するべきです。
米国人にとっては、この辺りは、文字通り「極東」(Far East)なわけで、大西洋を渡り、ユーラシア大陸を横切ってその東端にある、
遠い、遠い場所な訳です。
北朝鮮が、「是非」と招待するから、遠路はるばる来てやったのに、招待を指示したはずの最高権力者が姿を見せないのは、
あまりにも礼を失しています。
尤も、ベルリンの壁が無くなったときも、ソ連が崩壊したときも、私たちは、寸前まで予想だにしなかったのですから、
一見元気そうに見える「将軍様」もいつどうなるか、分かったものではありませんね。
投稿: JIRO | 2008.02.29 18:03
こんにちは。今日の記事に関連してですが、私もニューヨークフィルが平壌で公演すること自体、「なんで?」と思っていました。ニューヨークフィルにとっては、百害あって一利なしのような気がしたものですから。
>平壌公演は、今夏に北朝鮮の金桂冠(キムゲグァン)外務次官が提案。ヒル米国務次官補が計画を推進した。
この一文で、音楽という芸術を政治が利用したのが明らかですね。「将軍様」と6ヶ国協議の交渉担当者が、北朝鮮と米国の雪解けムードを演出しようとして音楽を利用し、そしてこの「将軍様」は、さらに自分を誇示する手段としてに公演を「欠席」するという、ニューヨークフィルに対して大変失礼なことをしたわけです。ニューヨークフィルのメンバーもJIRO様と同じように、芸術を冒涜するなと憤慨していると思いますよ。
自分の保身のことしか考えないこの「将軍様」、速やかに地位を退くのが国民のため、そして東アジア、世界のためだと思います。
投稿: あつし | 2008.02.28 13:13