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2008.05.29

「殺人有罪で懲役7年、死体バラバラは無罪」←一人の鑑定人だけの意見で判決を下して良いのですかね。

◆記事:殺人有罪で懲役7年、死体バラバラは無罪(スポニチ 2008年05月28日)

東京都渋谷区の自宅で短大生の妹を殺害、遺体を切断したとして、殺人と死体損壊の罪に問われた元歯学予備校生武藤勇貴被告(23)に東京地裁は27日、

死体損壊を無罪として殺人罪の成立のみを認定、懲役7年(求刑懲役17年)の判決を言い渡した。

死体損壊時を多重人格状態と結論付けた精神鑑定を、信用できると認定。「本来とは別のどう猛な人格状態にあった可能性が高い」と指摘した。

秋葉康弘裁判長は、死体損壊について無罪とした判決について

「解離性同一性障害(多重人格)により、本来の人格とは別のどう猛な人格状態にあった可能性が非常に高い」と指摘。

一方、殺害行為について、被告がトラブルなく日常生活を送っていた点や、発覚を恐れて遺体のある自室に入らないよう家族に告げたことなどを挙げ

「制御能力がかなり減退していたことは否定できないが、責任能力が限定されるほど著しいとはいえない」と述べ、完全責任能力を認めた。


判決は「遺体損壊時は多重人格」とした牛島定信東京女子大教授の精神鑑定に対し「手法や判断方法に不合理な点はなく十分信用できる」と言及。

「被害者の挑発的な言動に怒りの感情を抱き、激しい攻撃性が突出。殺害に及び、その衝撃で解離状態が生じ、遺体を損壊した」とする鑑定結果を採用した。

さらに遺体を左右対称など15に切断した犯行態様を「隠ぺいや運搬を容易にするためということでは説明できず、別人格を仮定しないと説明できない」

などとする牛島氏の判断も認めた。その上で「本来の人格は別の人格状態とかかわりがない。

被告が別人格に支配されて自己の行為を制御する能力を欠き、心神喪失状態にあった可能性を否定できない」と結論付けた。


秋葉裁判長は「人1人の命を奪った結果はあまりに重い」と言葉を強めた上で、

被告が広汎性発達障害の一種のアスペルガー障害や解離性障害を患っていたことに触れ

「あなたは1人の社会人として立派に生きていくだけの力がある。責任を果たして社会に戻ったら、

専門家にアドバイスをもらい、前向きに生きていってほしい。そうすることが妹さんの死に報いていくことではないか」と諭した。

武藤被告は白いシャツに紺色のベスト、黒のスラックス姿。正面を見据えながら判決を聞き、

秋葉裁判長の言葉に軽くうなずいた。被告の両親も、何度もうなずきながら聞き入った。

武藤被告の弁護側は一部が無罪となった判決を「率直に評価する」とし、控訴するかどうかについては「被告人と家族と相談する」とした。


◆コメント:一人の鑑定人だけの意見を聞いて、「遺体損壊時は別人格」との判決を下すのは、どうかと思います。

はじめに。引用した記事が「スポニチ」なんですが、これは毎日新聞グループのスポーツ新聞です。

しかし、この判決に関しては、親新聞の毎日新聞より、こちらの方が詳細に触れているので、こちらを採用しました。

この判決は、読めばわかるのですが、一言で言うと、妹を殺害して死体をバラバラにした被告人は、

いわゆる「多重人格」(今は解離性同一性障害といいますが)だ、と。

妹を殺したときは、本人(本来の人格)だったけど、その後、妹の死体をバラバラにしたのは、「別人格」だった。つまり、

ちょっと語弊があるけど、本人じゃなくて、本人の中にいる別人の犯行だ。だから、本人は、死体損壊罪は無罪である、というものです。


◆今日、通院日だったので、臨床歴30年以上の主治医(精神科医)に訊いてみました。

私はうつ病患者で、月に一度某大学病院に通院しています。主治医の先生は精神科医として30年以上もの臨床経験がある方です。

ここに名前を書きたいぐらい、日本を代表する精神科医の一人なのです。

なので、私は、自分の面談(精神科では、「診察」より「面談」という言葉を使うことが多いのです)が終わった後、この先生に、

今までの長い臨床歴で、所謂「多重人格」に遭遇したことがありますか?と尋ねました。

先生の答えは「No」でした。この先生の専門はうつ病の研究と臨床ですが、勿論それだけではなく、ありとあらゆる症例を経験しているのです。

うつ病、統合失調症、摂食障害、あらゆる種類の神経症(不安神経症、その一種のパニック障害、強迫神経症、などなど)、アルコール依存、

薬物依存、睡眠障害、発達障害、境界性人格障害などの人格障害、てんかん、etc. etc.。

そういう精神科のベテランですら、多重人格は診たことがない。つまり、それほど珍しい症例なのだ、と言うことです。

ただ、「多重人格」という言葉のもつミステリアスなひびきの所為でしょうか。しばしば、ミステリーやドラマ、映画のネタとして使われます。

だから、我々でも言葉だけは、何となく知っている訳です(一番すごいのは、「24人のビリー・ミリガン」でしょう。

実際にアメリカであった話をプロの物書きがまとめたものですが、24重人格の持ち主がいたのです)。


◆本当に多重人格なのか、一人の鑑定人の意見だけを全面的に採用して判決を下して良いのでしょうか。

私の主治医の先生は、

多重人格か否か診断を下すのは非常に難しい筈だ。自分でも出来ないと思う。本当の専門家が、吟味を重ねて、判断するべきだろう。

とおっしゃっていました。

この判決がよりどころとした精神鑑定をした鑑定人は、一人ですよね。東京女子大の牛島教授。

裁判長は、牛島定信東京女子大教授の精神鑑定に対し
「手法や判断方法に不合理な点はなく十分信用できる」

と、判決文に書いているそうですが、そんなこと、法律についてはプロですが、精神医学に関しては素人である裁判官が、どうして言いきれるのでしょう?

裁判の進行手続きの詳細に関して、恥ずかしながら知りませんが、最低二人。つまり複数の専門家に別々に精神鑑定をさせて、

意見がほぼ同一ならば、採用する、など、もう少し慎重を期するべきではないか、と思います。

ついでに付け加えるならば、裁判長は、
被告が広汎性発達障害の一種のアスペルガー障害や解離性障害を患っていたことに触れ

とあります。これは少々軽率ではないか、と思います。まず、「アスペルガー症候群」です。「知能障害の無い自閉症」と呼ばれていますが、

この話も私の主治医の先生から伺ったのですが、診断が極めて難しい。そしてアスペルガーだから、どうだ、と言うことではないそうです。

アスペルガー症候群の子供が将来、殺人を犯す、などというデータは存在しない。裁判長はあまり深く考えずに言及していますが、

世の中には、アスペルガー症候群の子供が実際にいるわけですから、彼らが変な目で見られるかも知れない。


以上の点に鑑み、これは、全体として、拙速(犯行からの時間の経過ということではなく、手続きとして)、かつ、配慮に欠けた判決だと思うのです。

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コメント

selaさん、コメントをありがとうございます。

>発言の、特に『用語』がもたらす二次的風評(被害というとあれですので)を、裁判官はもっと自覚してほしいですね。

そうなんです。全然考えていないのですよ。本文にも書きましたが軽率です。

>学問的厳密性を考えれば考えるほど
>ひとりふたりの意見では『断定』出来ない、特に精神領域では至難だろう、というのは、門外漢にすら想像できるのに。

そうでしょ? 鑑定人が一人だけで、その人だけの意見を根拠に、

「遺体損壊時は別人格だった」なんて、今までに無い判決なんですから、慎重の上にも慎重を期して欲しかったですね。

投稿: JIRO | 2008.05.30 03:07

発言の、特に『用語』がもたらす二次的風評(被害というとあれですので)を、裁判官はもっと自覚してほしいですね。

学問的厳密性を考えれば考えるほど
ひとりふたりの意見では『断定』出来ない、特に精神領域では至難だろう、というのは、門外漢にすら想像できるのに。

投稿: sela | 2008.05.29 17:18

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