「危険なカーブ放置問う JR西社長在宅起訴」←妥当性が認められない。
◆記事1:尼崎脱線事故、JR西社長を在宅起訴 神戸地検「対策怠る」(NIKKEI NET)(07:00)
107人が死亡した2005年4月のJR福知山線脱線事故で、神戸地検は8日、JR西日本の山崎正夫社長(66)を業務上過失致死傷罪で在宅起訴した。
安全対策の最高責任者の鉄道本部長(常務)時代、事故が起きる可能性を予見できたのに、
現場カーブに新型の自動列車停止装置(ATS)の設置を怠った過失があると判断した。
起訴を受け大阪市北区の本社で記者会見した山崎社長は「会社を円滑に運営するためには辞任すべきだと考えた」と辞意を表明。
後任人事については今後詰めるとした。
鉄道事故を巡って鉄道会社の当時の経営陣が起訴されるのも、現職社長が起訴されるのも極めて異例。
山崎社長はこれまで事故は予見できず過失はないと主張、会見でも「裁判所の判断を仰ぎたい」と述べ、
JR史上最悪の被害となった事故の刑事責任は裁判で争われることになる。
◆記事2:危険なカーブ放置問う JR西社長在宅起訴--JR福知山線脱線事故 (NIKKEI NET)(07:00)
乗客106人が犠牲になったJR福知山線脱線事故から4年余り。事故をめぐる捜査は8日、
異例の山崎正夫・JR西日本社長(66)の在宅起訴で一つの区切りを迎えた。
多くの人命を預かる公共交通機関ゆえに高い安全性が求められる中、危険を放置したとして
刑事責任を問われることになったトップ。遺族らからは1人だけの起訴に終わったことなどへの不満の声が目立った。
事故当時、自動列車停止装置(ATS)の設置義務はなく、
現場カーブでは脱線事故が起こるまで約60万本の電車が一度の事故もなく通過している。
「カーブ手前に新型ATSが整備されていれば事故は防げた」と指摘した国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(当時)も
「JR西が整備に緊急性があると認識するのは容易でなかった」とした。(注:色文字は引用者による)
◆コメント:事故発生直後の記憶。
この事件は大変良く覚えている。本件起訴とは直接関係ないが、あまりにも鮮明に覚えていることを記す。
日記・ブログでも、何度も取りあげたが、当初ブロガーの間では、マスコミのJR西日本に対する「吊し上げ」があまりにひどく、
JRへの非難よりも、むしろ、マスコミの態度の悪さに非難が集中したことを覚えている。
確かに、一度に106人もの生命が失われた大事故には違いないが、事故が起き直後に明らかだったのは、
平成17年4月25日午前9時18分ごろ、兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口-尼崎間で、快速電車が脱線。
マンションに衝突し、乗客106人と運転士が死亡、562人が重軽傷を負った。
という、「事実」だけであり、その「原因」が何か。更にその原因が人的なものだとして、責任の所在はどこにあるのか、
などは、当然のことながら、事故調査委員会の報告を待つべきだった。
ところが、マスコミのJR西日本での態度の悪さは殆どヤクザ並で、最初からJR西日本の幹部を罪人扱いし、
中でも、あまりにも態度の悪いのが読売新聞大阪本社の記者だとわかり、読売新聞大阪社会部長名で謝罪文を掲載したほどだ。
日記に書いた。
2005年05月13日(金) 不適切発言でおわび…読売・大阪本社 ←本当に反省しとるんかい!! (ココログ)
また、この事故直後から、事故とは全く関係の無い、JR西日本職員が嫌がらせや暴行を受ける事件が多発した。
ひどい例では、他の路線の女性運転手が、一般人に蹴られて、線路に転落しそうになり、
その後、恐怖のあまり暫く電車の運転が出来なくなった、という事実も伝えられたのを覚えている。
これも、日記に書いた。
2005年05月10日(火) ◆JR西乗務員へ嫌がらせ120件 脱線事故後に相次ぐ 心理学的考察 (ココログ)
◆事故が起きるまで約60万本の電車が一度の事故もなく通過したカーブですよ?予見可能性あるの?
それはさておき、JR西日本の山崎正夫社長は、事故当時、安全対策の最高責任者の鉄道本部長で、
事故が起きる可能性が予見できたのに、事故現場のカーブにATSの設置を怠った、という理由で起訴された。
これ、少し、酷ではなかろうか。事故予見可能性があったというが、記事2に書いてあるとおり、
この事故が起きるまで、約60万本の列車が一度も事故を起こさずに通過しているのである。
これで、「事故を予見出来た」とするのは、やや強引な気がする。
そして、百歩譲って、事故予見可能であったとしても、ATSを設置していなかった責任が、当時の鉄道本部長1人の責任になるのであろうか?
ATSを設置するとしたらJR西日本でしょ?鉄道本部長がポケットマネーで、ATS工事費用を負担するわけでじゃないでしょ?
山崎氏1人だけ起訴という、法的措置は妥当なのだろうか?
この事故の最終報告書は平成19(2007)年6月28日に提出された、
「鉄道事故調査報告書」西日本旅客鉄道株式会社福知山線塚口駅~ 尼崎駅間列車脱線事故である。
PDFで275ページになる。全部を読むことは出来ないがATSの箇所を読んでみた。
3.10.1 同社における曲線速照機能のあるATS整備に関する解析
書類本文でいうと228ページ。PDFでは多分、239ページになると思う。
結論を要約すると次のようになる。
もし、このカーブにATSを付けていたら、事故は防げたかも知れない。けれども、以下、引用。
同社には曲線区間における速度超過による事故の危険性の認識があった可能性が考えられる。
しかし、2.20.2.1 に記述したように、同社が発足した昭和62年4月以降の曲線区間における速度超過による列車脱線事故等は
JR貨物函館線の下り勾配区間における2件の死傷者のない列車脱線事故のみであったことから、
安全推進部長が曲線区間における速度超過による脱線を具体的な危険要素とは認識していなかった旨口述している(2.13.8.4 参照)ように、
同社がその危険性を曲線速照機能の整備を急ぐことが必要な緊急性のあるものと認識することは必ずしも容易ではなかったものと考えられる。
つまり、カーブでの速度超過で事故が起きる可能性は一般論として、JR西日本は認識していたかもしれないが、
それまで同種の事故は2件しか起きておらず、死傷者も出ていなかったから、ただちにATSを設置する必要がある、
と認識することは難しかったであろう、というのだ。
しかも、当時国交省は、ATS設置を義務づけていなかった。文書では230ページ。PDFページでは、241ページ。
3.10.3 国の規制等に関する解析
2.20.2.1 に記述したように、国土交通省鉄道局は、昭和62年4月以降に発生したJR貨物の2件の曲線区間における列車脱線事故について、
同社に対しても、鉄道保安連絡会議において事故の概要、原因、対策等について情報提供するなどしたとしている。
しかし、2.13.8.8 に記述したように、国土交通省鉄道局は、ATSについて「付加的な機能については義務付けているものではない」
としており、曲線速照機能の整備を鉄道事業者に義務付けていなかった。
のである。
◆結論 当時の鉄道本部長だけを起訴することに妥当性は認められない。
新聞記事や、事故報告書を読んで、私なりに結論をまとめると次のようになる。
結果論としては、もし、現場カーブにATS(自動列車停止装置)を設置していたら、この事故は防げたかも知れない。
しかし、事故までに60万本もの列車が一度も事故を起こさずにこのカーブを通過していたこと。
それ以前に、他の鉄道路線で、カーブによる速度超過で脱線して死傷者が出た例が無かったこと。
鉄道会社の監督官庁である国土交通省の鉄道局も、ATSを「付加的な機能」と呼び、「(設置を)義務づけている物ではない」と明言していること。
に鑑み、山崎社長(事故当時鉄道本部長)だけの法的責任を問うべく起訴することに、妥当性は認められない。
以上。
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コメント
あつし様、こんばんは。コメントをありがとうございます。
>> 事故当時、自動列車停止装置(ATS)の設置義務はなく、
>> 現場カーブでは脱線事故が起こるまで約60万本の電車が一度の事故もなく通過している。
>
>ということですから、ATSを設置していなかったからといって、その責任が当時の鉄道本部長1人の責任であるというのは、どう考えても無理があるように思います。
やはり、そうですよね。ご賛同頂き、我が意を強く致しました。
>そして私いつも思うのですが、何か大きな事故や事件が起きると必ず誰かを犯人や、
>個人に責任を負わせようとする、今の社会の風潮のようなものを感じます。
そうですね。本文にも書きましたが、事故直後から、まだ何も事故の真相が分かっていないのに、
マスコミが記者会見でJR西日本幹部に質問するときの態度は既に「罪人扱い」でした。
私は(結果的にはそうなりませんでしたが)、マスコミはJR関係者の誰かが責任を取って自殺するまで、
追い込む気なのではないか、と、半ば本気で感じたほどです。
しかし、責任を追及し、犯人を「仕立て上げ」、る対象は民間人に限られており、監督官庁で或る国土交通省の鉄道部長
に関しては、全く個人的な責任を問われない。公務員は個人責任を問われない。これが、全ての役所でいい加減な通達を出し、
現場が混乱しても、平然としている原因かと思います。
個人に全ての責任を帰するのは、おっしゃるとおり本当の事故原因の究明、再発防止から、目をそらせます。
私は、事故調査報告書は、JR西日本の経営体質にまで言及するべきではなく、純粋に物理的に脱線の原因を
説明するに留めるべきではないかと思います。
事故を起こした電車運転士が、前の駅でオーバーランをしてしまい、結果運航ダイヤに遅れをとり、
これを取り戻すべく、事故発生現場のカーブを過大なスピードで通過した、というのは、憶測の域を出ず、
ましてや、その問題の根源が、JR西日本の「日勤教育」にあったかどうか、は、類推の域を出ません。
つまり、
「日勤教育が行われていなかったら、当該運転士は、運航予定の遅延を取り戻そうとせず、
スピードを出さなかった」か否かは、証明出来ません。
事故調査は、物理的側面に基づき、本件事故現場程度のカーブにはATSの設置を国交省が
義務づけるべきだ、ぐらいを述べるのが妥当ではないか、と思います。
あつし様がおっしゃるとおり、当時の鉄道本部長だけの刑事責任を問うても、事故再発予防効果は、
期待出来ません。
投稿: JIRO | 2009.07.12 02:30
こんにちは。私も、このニュースを見たとき、なんで??? と思った者の一人です。JIROさまも引用されていますが、
> 事故当時、自動列車停止装置(ATS)の設置義務はなく、
> 現場カーブでは脱線事故が起こるまで約60万本の電車が一度の事故もなく通過している。
ということですから、ATSを設置していなかったからといって、その責任が当時の鉄道本部長1人の責任であるというのは、どう考えても無理があるように思います。
そして私いつも思うのですが、何か大きな事故や事件が起きると必ず誰かを犯人や、個人に責任を負わせようとする、今の社会の風潮のようなものを感じます。
国際民間航空条約で事故調査報告書は事故の再発防止が目的であり、刑事裁判の証拠として採用することを認めていませんが、日本航空が伊勢湾上空で起こした事故の裁判では証拠採用され、機長が起訴されたことがありました。これも犯人捜しを目的とした、検察や警察の捜査の結果です。余談ですがその機長は無罪が確定しております。
今回のこのJR西日本の山崎正夫社長の起訴も、検察や警察が犯人捜しをした結果なのではないでしょうか。で、そればかりに目を奪われると、本当の意味での事故再発防止策にはならないと思います。
投稿: あつし | 2009.07.10 16:37