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2010.01.19

NHK教育テレビ ETV特集「なまえをかいた」試聴後雑感。

◆差別が原因で小学校に通えず、60歳までエンピツをもったことが無い人がいる。

世界に誇る低い文盲率といわれる日本だが、その陰には、差別やそれに起因する貧困が原因で、

今でも字が読めない、書けない人が100万人以上いるだろう、という話で、驚いた。

1月17日(日)22時からNHK教育テレビで放送された、

なまえをかいた 吉田一子 84歳

を見て、義憤と感動を覚えた。

現在、大阪の南河内富田林市に住む吉田一子さん(84)は、60歳になるまで字を書いたことが無かった。

はっきり書くと(ご本人は何も悪いことをしたのでもなんでもないからだ)被差別部落に生まれ、戸籍さえ作られなかったので、

小学校にすら行けなかったのである。部落解放云々は、私の本論ではないので、ここではこれ以上述べない。


ただあまりにも理不尽である。

日本には実は、この世代の、特に女性で、文盲がいるのだ。同番組によると100万人以上だろうとのこと。


◆字をかけるようになり、吉田さんの人生は一変した。

「百聞は一見にしかず」なのだが、この番組の再放送の予定は無いとのことなので、

ネットのNHKオンデマンド ETV特集を出来れば是非ご覧頂きたい。

しかし、どうして私がそれほどまでにお奨めするか、不思議に思う方もおられるかもしれない。

理由は簡単で、良い番組だからである。

吉田一子さんが識字教室に通いはじめ、ようやく全てのひらがなを書けるようになるまでには、

随分時間がかかった。何しろ60歳を過ぎて初めて「鉛筆」というものを手に持ったのである。


最初はまず、鉛筆の持ち方すら分からなかった。棒を握るように、全ての指でむんずと鉛筆を握りしめたりした。

識字教室の講師は、元学校の教師だったような人達が教えている。

講師の辛抱強さも偉大である。マンツーマンで丁寧に教えて行く。

繰り返すが60を過ぎて初めて鉛筆持ち、文字を書くのだ。


しかし、吉田さんは週3回の識字学級がよいで、ひらがなを読み書き出来るようになった。

吉田一子さんの人生は一変した。今までの人生でいいたかったことは山のようにあるが、

何しろ、字を書けないから、不特定多数に向けてその思いを伝えることが出来ない。


2年前、一子さんを有名にする出来事があった。一子さんをモデルにした絵本が出版された。

ひらがなにっき


その中の一文。

きょうは はじめて ひとりで でんしゃにのりました。

とちゅう ラーメンをたべようとおもったけど かんじがわからないので たべないでかえってきました。

わたし、じィ(引用者注:吉田一子さんは「字」のことをしばしば「じィ」と表記する)をべんきょうしたら、

そのじ、にげんように って てにかいてね ぐっとにぎりしめていえにもってかえるんですわ。

えきで らくがきをみました。びっくりして はらたって なみだがでました。

なにかんがえてるんやろね。だいじなかわいいじィ つこて、ひとにわるぐちかいて

ばち あたりまっせ

絵本の絵を見ると、駅には、「バカ、きえろ、うざい」など若者が書いたと思える落書きがある。

一子さんにとって、字は(そういう語彙を一子さんは用いていないが)神聖な存在、自分が一生懸命覚えた

宝物である。その宝物を冒涜された気持がしたのであろう。

番組を見ていて、心を打たれた。字が書けるのが当たり前と思っている私たちは、

知らないうちに、大切な「文字」という言語媒体を粗末に扱っているのである。


◆例を挙げるとキリがないが・・・・。

「ひらがなにっき」には、こころあたたまる文章が沢山ある。

字が書けなかったのは一子さんの責任ではない。一子さんには、分かり易く自分の思いを表現する能力があった。

自分が勉強していたら、お孫さんが一種懸命、書き順を教えてくれたこと。

自分が使っていた、小学校二年生の国語の教科書を持ってきて、「これでべんきょうするといい」とすすめてくれたこと。

ひらがなの習得がおわり、漢字も勉強したが、非常に苦労したこと。

しかし、初めて漢字で自分のなまえを漢字で書いて、銀行預金を引き出せた時には(それまでは、家族に着いてきてもらっていた)、

嬉しくて嬉しくて涙が出たこと。胸が熱くなる。

21世紀の日本に吉田一子さんと同じような人が何と100万人以上もいること。

差別の理不尽さ。

が、一子さんは穏やかな人だ。今はあちこちの小学校で「ひらがなにっき」を教材として使っている。

一子さんは、その学校にしばしば呼ばれて、自分の体験を話す機会が増えた。

今時の、感性が摩耗してしまったような、ゲームばかりしている子供達ですら、さすがに一子さんが現れて

話をすると、真剣そのものの表情で聞いている。

一子さんは「講演」の終わりに子供達に、

私のようにならないで下さい。せんせいのいうことをよくきいて、いっしょうけんめい勉強して下さい。

と語りかける。子供達は神妙に聞いて、口々に有り難うございました、と一子さんに感謝していた。

最近、初めてのひ孫が一子さんに生まれた。

一子さんは、その子が成長し、一緒に字のれんしゅうをする日を楽しみにしている。

どうか、一子さんが元気で長生きしますように、と、日頃は悪魔のように意地が悪い私だが、

今日ばかりは、こころからそう願った。

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コメント

あつし様、いつもコメントをありがとうございます。レスが遅くなりまして、申し訳ありません。

実は「ひらがなにっき」を取り寄せて読んでおりました。

読み進むにつれ、今まで一子さんが言葉に記したくても出来なかったことが、

文字を習ったことにより溢れるよう、次から次へとわき出てくるのを見て、しばし、目が離せませんでした。

>字が読めたり書けたりすることは、この日本で暮らしているなら当たり前だと思っていましたから。

私も全く同じでして、自分がそうなのだから、日本中当然同じだろう、まさか今の日本で字を全く習ったことが無い

方々がいるだろう、などとは夢にも思いませんでした。

>文字は大切な宝物であるということを自分たちも肝に銘じて、日々の生活で大切に使うべきものなのだと思いました。

本当にそうです。故・司馬遼太郎氏のエッセイ集「風塵抄」に、

>皆、ことばほど素晴らしいものはない、と心の中で思っている。

と書いておられたのを思い出しました。私達が生まれて初めて聞く音は、音楽ではなく、言語なのですから。

投稿: JIRO | 2010.01.27 03:45

おはようございます。字が読めない、書けない人が100万人以上ということに、本当にびっくりしました。字が読めたり書けたりすることは、この日本で暮らしているなら当たり前だと思っていましたから。いかに私のこの考え方が自分本位で、傲慢とも言える考え方だったことを思い知り、遅ればせながら反省した次第です。

JIRO様も書いておられますが、一子さんにとって文字は、本当に苦労して手に入れた大切な宝物なのでしょうね。そしてこの日記を読んで私は、文字は大切な宝物であるということを自分たちも肝に銘じて、日々の生活で大切に使うべきものなのだと思いました。なぜなら私たちの文化を支えているのは文字であり、言葉ですからね。そうすれば人をののしるような汚い落書きなど、決して出来ないと思うのですが。

吉田一子さん、本当に元気で長生きしていただいて、ひ孫さんと読み書きの練習を楽しんでいただきたいと思います。

投稿: あつし | 2010.01.20 09:40

antoinedoinelさん、こんにちは。いつもコメントをありがとうございます。

>「日頃は悪魔のように意地が悪い私」に思わず笑ってしまいましたが(・・・ここは反応する所じゃないですね),

いやいや、ウケて頂けて安心しました。冗談通じない人もいますから(笑)。

>平成22年になった今も字の書けない方が100万人もいるとは驚きました。

同感です。正確に把握できないから多分もっと多い。平均すると、日本人の100人に1人は、今でも読み書きが出来ない。

驚くと同時に猛烈に腹立ちますな。そういう人達を分母にいれなければ、それは識字率100パーセントになっちゃいますからね。

>文盲の方は「読み書き出来ない」ことを絶対他人に知られないよう必死で隠すものだ,とその映画を見た後でどこかで読みました。

そのようですね。アメリカには、文盲が結構いるのですが、識字教室来るのって本当に「勇気がある人」と見なされるようです。

antoinedoinelさんがご覧になった映画、あいにく見たことが有りませんが、おっしゃるとおり、文字を義務教育で習うことが出来た人間には

想像もつかない気持なのでしょうね。全く同じ感想です。

一子さんの感性がまた素晴らしい。ひらがなが読めるようになって、駅の落書きを見たら涙が出たと。

何と言うことをするのだ、と。この素晴らしい、「字」という宝物で、と。言葉が出ませんでした。

NHKはなんだかんだいわれますが、ああいうのは民放じゃ作れないです。

良い番組でした。

antoinedoinelさん同様、これからの一子さんの人生に少しでも一つでもより多くの幸福がもたらされることを祈ります。

投稿: JIRO | 2010.01.20 04:19

「日頃は悪魔のように意地が悪い私」に思わず笑ってしまいましたが(・・・ここは反応する所じゃないですね),平成22年になった今も字の書けない方が100万人もいるとは驚きました。

私はよくネパールやインドといった就学率の(特に女子は)低い国を旅行したのですが,現地の人とよく「識字率」が話題になり「日本の識字率は何パーセントぐらい?」と訊かれるたびに,何の根拠もなく「100%に近いと思う」と答えていました。確かに100万人というと生まれたての赤ん坊も含めた全人口の1%以下ですから「100%に近い」とも言えますが,ちょっとした地方都市の人口並と思うと,その数字の大きさにショックを受けました。

「字の読み書きができない」というのがどんな状態であるのか,普通に義務教育を受けることができた人間には想像も及ばないものです。前に「朗読者」という本を読み,映画化されたものも見ました。主人公の少年が恋するずっと年上の女性が文盲で,それを隠していたために戦時中(ナチの収容所で看守をしていた)の濡れ衣を着せられるというものですが,裁判の時も頑に文盲であるということを隠します。それさえ言えば罪を着せられることはないのに。

文盲の方は「読み書き出来ない」ことを絶対他人に知られないよう必死で隠すものだ,とその映画を見た後でどこかで読みました。文盲であることを知られるよりも,一生刑務所の中で暮らすことを選ぶほどというのは,そうでない人には想像もつかないほど苦しい秘密なのでしょう。せつなく,重い作品でした。

私も日頃はJIROさんに負けず劣らず意地悪なことばっかり言ってますが,一子さんにはお元気で,お幸せに,と祈らずにいられません。やさしいお孫さんがいて,ひ孫さんも生まれて,ほんとうによかったですね。

投稿: antoinedoinel | 2010.01.20 01:41

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