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2010.11.11

「尖閣諸島漁船衝突ビデオ流出」に関する考察。

◆記事1:「全く想像せず」=海保、重苦しく―神戸に「激励」殺到(時事通信 11月10日(水)20時24分配信)

漁船衝突ビデオ流出事件で、神戸海上保安部(神戸市)の海上保安官(43)が警視庁の事情聴取を受けた10日、

海保関係者の間には重苦しい空気が流れた。

神戸海保を管轄する第5管区海上保安本部。幹部は「まさか神戸の職員とは…。こんなことをするタイプではない。全く想像していなかった」と驚く。

保安官から告白を受けた巡視艇の船長も、あまりの驚きに本人が何と言ったか、自分がどう答えたか、はっきりと覚えていないという。

神戸海保には夜までに、電話とメールが400件以上寄せられた。「頑張れ」「捕まえないで」など、ほとんどが保安官を激励する内容という。

 東京・霞が関の海上保安庁。首脳級幹部の一人は記者と目を合わせようとせず、問い掛けにも口を真一文字に結んだまま。

別の幹部は「一般の人が応援してくれるのはうれしいが、それと証拠の流出は別だ。

ああいう映像が出たら、領海警備などに支障が出る。海上保安官として考えられない」と肩を落とした。


◆記事2:海保にメールや電話 非難なし(NHK 11月10日 15時40分)

第5管区海上保安本部によりますと、神戸海上保安部の海上保安官が衝突映像を流出させたと報道された正午ごろからおよそ2時間の間に、

メールや電話、あわせておよそ300件が寄せられたということです。その内容は「頑張れ」とか、

「海上保安官をかばってほしい」というもので、海上保安官や海上保安部を非難する内容のものはないということです。


◆コメント:或る行為が犯罪として罰せられるならば、それはその行為が社会に与えた害悪の程度による筈だ。

18世紀のイタリアの啓蒙思想家、チェザーレ・ベッカリーアという人は、著書「犯罪と刑罰」で、

犯罪の重さの尺度は、本来、社会に与えた損害の程度による。

と書いている。確かに、国家公務員法第100条第1項には、
職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

という文言がある。これを規定した目的は、国家公務員が職務によって知り得た情報を公開することにより、特定・不特定の個人、団体、

ひいては国家が損失を被るおそれがある、という蓋然性を考慮した、一般論である。

その恐れ(個人や団体や国家が損失を被る可能性)を考えると、結果論だけで、当該海保職員を良くやったという訳にはいかない、

とする論理も説得性がないではない。しかし、今までにより一層深刻な情報漏洩が起きた時、日本政府は、

これほど事態を深刻に考えなかったことに鑑み、今回だけ、どうしてこれほど大騒ぎになるのか

理解に苦しむ。


◆国税庁、日銀、自衛隊の情報流出の時、内閣総理大臣は全く知らぬ存ぜぬだった。

私が拙文を公開し始めてから8年7ヶ月になるが、覚えているだけでも、中央官庁による、

今回よりも遙かに重大な情報紛失・漏洩が何度もあった。

例えば、東京国税局が、47万人分の納税者個人情報が保存されているパソコンを盗まれたことがある。

2005年09月24日(土) <納税者情報盗難>47万人分保存のPC2台 東京国税局 責任者は財務相ですよね?ココログ

納税者個人情報には、当然申告された所得が記載されている。つまり金持ちがどこに住んでいるか、を知ることができる。

この情報を悪用されたら、どういうことが起こりうるか、容易に想像が付く。


大不祥事だが、どういう訳か、日本人はこの手の話に殆ど異常に寛容である。国税庁長官は更迭されていない筈だ。

また、国税庁は財務省の外局だが、財務大臣、ひいては行政府を統括する内閣総理大臣から、何の謝罪もなく、

その後、この情報がどうなったのか。ある程度は調査の結果が出たのか、うやむやに終わった。


更にひどい例。日本銀行松江支店職員の自宅パソコンから経営状態が悪化した企業の財務状況などの内部資料が

ウィニー経由で流出し、そのため、「破綻懸念先企業リスト」に載っていた企業が本当に破綻してしまったことがある。

2008年03月23日(日)「日銀松江支店 内部資料が流出」←役所の情報管理ココログ

これは、日本の中央銀行の情報漏洩で、実際に企業が破綻したのであるから、「社会に与えた実害」が発生したのであるが、

日銀総裁も、内閣総理大臣も辞めなかった。

更に、自衛隊員の私物パソコンから、国防の要であるイージス艦に関する機密情報が、エロ写真と共に、やはりウィニー経由で

世界にバラ播かれ。日本国が世界の笑いものになったのは、記憶に新しい。

日本国を防衛するシステムに関する情報を、ご丁寧にもわざわざ世界に知らせてしまったのであるから、ただ事ではないが、

この時にも内閣総理大臣が謝罪した覚えはない。


◆中国漁船が不法に日本の領海で操業し、海上保安庁の巡視艇に故意に衝突した事実を何故隠すのか。

今回、法形式論的には、海上保安官がビデオをYouTubeに掲載したことは、違法行為になるかもしれないが、

財務省や自衛隊の情報漏洩は、納税者や日本国の安全を危険に晒したのである。何も起きないのは、偶然である。

日本銀行の内部資料流出は、一企業を破綻させてしまった。


それに対して日本の領海で密漁を行い、かつ海保の巡視艇に衝突してきた中国船の様子を、記録したビデオは、

中国漁船の行為の違法性、日本の主張の正当性の証拠となるもので、それよりもデメリットの方が大きいとしたら、

何故なのか。法令遵守(コンプライアンス)上の問題が全くないとは言えないが、

そもそも、政府がビデオ映像をもっと早い時期に世界に公表するべきではなかったのか。


一旦逮捕した中国漁船の船長を取り調べ半ばで釈放し、中国には、「対日外交はゴリ押しに限る」ことを教えてしまい、

アメリカには呆れられ、ロシアまで大統領が図に乗って北方領土にやってくる。

日本の外交上の失敗が国際社会で露呈してしまい、これこそが社会(日本国)に対する不利益をもたらしているのに、

ビデオを漏洩した海保職員を国家公務員法で処分する、というのは、問題の本質の隠蔽である。

と世論は察しているのであろう。教科書風に書くならば、

海保職員の行為は、国家公務員の法令遵守義務という法的安定性を脅かしているが、

その行為には「具体的妥当性」が備わっている、と認められる。

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コメント

あつし様、コメントをありがとうございます。レスが遅くなりまして、申し訳ありません。

そうですね。 ビデオの存在自体以前から国民が知っていたことですし、

流出したビデオが問題だ、といって、そのYouTubeの映像を今度はテレビ各局がニュースで流しているのですから、

11月17日現在、最早、国家公務員法の所謂「秘密」に該当しなくなっています。

いっそのこと44分の元テープを全部国民に公開したらどうか、と思います。

また、ビデオ・ニュース・ドット・コムで言っていましたが、実はカメラは3台(船首寄り、中央、後方)

回っていて、流出映像は中央のものだそうで、前方のカメラで撮った衝突の詳細が分かる映像が

あるはずです。 公開しないと、公開出来ない何か不味いことがあるのか、といつまでも疑われますね。

過去の重大な情報漏れへの無反省は、あつし様がおっしゃるとおりです。

また、最近では、ビデオ流出よりも警視庁外事3課の公安情報の漏洩の方が深刻だと思います。

テロリストそのものの情報もさることながら、情報提供者、捜査協力者の名前が流出したら、

テロリストに命を狙われる訳で、そんな警察に今後だれが協力するでしょうか。

この点に関して問い詰める野党議員がいないのも不思議です。

全く、これほど日本が無茶苦茶になるとは、悪夢のようです。

投稿: JIRO | 2010.11.17 22:28

海保職員を国家公務員の守秘義務違反で処分するという程の秘密情報というのであれば、ビデオを見た後、取材等でべらべら喋った国会議員も、守秘義務違反で処分すべきではないでしょうか。
また報道にありましたが、このビデオは(1)公になっていない(2)秘密として保護すべきだ という守秘義務の対象条件から外れているのではということです。前述しましたが、ビデオを見た国会議員が取材等でビデオの内容を喋っていますし、複数の管区でも閲覧可能だったということですから(1)の条件に当てはまりません。(2)についても、既に当該船長は釈放されて帰国しているのですから、犯罪を立証するための証拠としての価値はありませんので、秘密として保護すべきものでも無いということでしょう。この解釈が絶対とは言いませんが、そんなビデオを秘密情報として政府が公表をしなかった理由が分かりませんし、公表しない方がよほど自国民に不利益をもたらしていると思います。よって、海保職員を守秘義務違反で処分というのは、仰るように、外交上の失策から日本に不利益をもたらしたという、問題の本質の隠蔽を図っているとしか思えません。俗に言う責任逃れの、トカゲの尻尾切りでしょう。
あとJIRO様も指摘されていますが、このビデオ漏洩以上にもっと深刻な影響を与える情報漏洩事件が過去に何度か有りましたが、トカゲの尻尾切りに終始していました。これからもまた、同じような漏洩事件を繰り返すのでしょうね。

投稿: あつし | 2010.11.11 14:09

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» 尖閣ビデオ流出と民主党マニフェスト [街の弁護士日記 SINCE1992]
マスコミは、相変わらず、犯人探しに忙しい。どこも尖閣列島海域であの日、あのとき、何が起きたのか真相に迫ろうとしない(ようだ。ようだというのは、産経新聞は違うという意見がありそうだからだ、僕は朝日と中日しか見ていないので、わからない)。 別にビデオを流出させた人を英雄扱いしたいとは思わない。しかし、真相の一端にしろ、国民がそれを知ることができたのは、彼のビデオ流出行為によることは厳然たる事実である。... [続きを読む]

受信: 2010.11.11 10:49

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