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2011.12.09

70年前、アメリカと戦争して勝てる、と本気で思った人々が大勢いましたが、命がけで反対した軍人もいたのです。

◆13歳の女学生ですら、「エーッ!アメリカと戦争して勝てる訳がない!」と思いました

私の母(いまでも健在ですが)は、昭和3(1928)年生まれですから、

昭和16(1941年)12月8日の真珠湾攻撃の「大本営発表」を聴いたのは13歳。

今の学制に当てはめると、中学一年生の「女の子」だったので、「何が起きたか」は

完全に理解できました。母は特に頭がいい訳でもないし、国際政治・外交に関心など無く、

小説や歴史の本が好きな普通の「女の子」でしたが、

「日本がアメリカとイギリスを相手に戦争を始める」と聞いて、

瞬間的かつ直感的に、「勝てる訳がない」と思ったと証言しています。

同世代の方、一般庶民の多く。普通の知能と常識のある人間は、皆そう思った。


勿論当時はテレビがありませんから、アメリカに関して得られた情報は

今とは比べ物にならないほど少なかったけれども、世界地図は当然ありますね。

アメリカと日本と大きさを比べます。それに大日本帝国海軍の「師匠」に当たる

英国が同盟なのですから、ゴタゴタ理屈を加えなくてもどうなるか分かる。


そう。それが常識的判断なのですが、それが、本来優秀なのに時折信じられないほど

バカになる日本人の民族性で、後年、倫理学者の和辻哲郎先生は著書

鎖国―日本の悲劇 (岩波文庫) の序文でその傾向を非常に見事に表現しています。

和辻哲郎「鎖国 日本の悲劇」序文

 太平洋戦争の敗北によって日本民族は実に情ない姿をさらけ出した。この情勢に応じて日本民族の劣等性を力説するというようなことはわたくしの欲するところではない。

 有限な人間存在にあっては、どれほど優れたものにも欠点や弱所はある。その欠点の指摘は、人々が日本民族の優秀性を空虚な言葉で誇示していた時にこそ最も必要であった。今はむしろ日本民族の優秀な面に対する落ちついた認識を誘い出し、悲境にあるこの民族を少しでも力づけるべき時ではないかと思われる。

 しかし人々が否応なしにおのれの欠点や弱所を自覚せしめられている時に、ただその上に罵倒の言葉を投げかけるだけでなく、その欠点や弱所の深刻な反省を試み、何がわれわれに足りないのであるかを精確に把握して置くことは、この欠点を克服するためにも必須の仕事である。

 その欠点は一口にいえば、科学的精神の欠如であろう。

合理的な思索を蔑視して偏狭な狂信に動いた人々が、日本民族を現在の悲境に導き入れた。がそういうことの起り得た背後には、直観的な事実にのみ信頼を置き、推理力による把捉を重んじない、という民族の性向が控えている。

 推理力によって確実に認識せられ得ることに対してさえも、やって見なくては解らないと感ずるのがこの民族の癖である。それが浅ましい狂信のはびこる温床であった。またそこから千種万様の欠点が導き出されて来たのである。

(色太文字は引用者による)

余談ですが、この本では「日本人の欠点」が醸成された背景として、欧米人が科学的思考の精神を、

約300年を費やして発達させていった正にその間、日本は国を世界に対して閉ざしており、

いきなり近代になってから、300年の成果を急激に取り入れようとして消化しきれなかったことに

関係がある。300年の間欧米人が何をしていたのか、その間の歴史を概観する必要がある、

といって、欧米人特に白人がこの間に何をしていたか、詳細に書かれています。

それは、科学的精神の獲得だけではなく、今で言う所の発展途上国に対して行った蛮行も全て

書いてあるのです。「鎖国」が書かれたのは、まだ占領軍が日本にいる最中で、この本の内容を知った

GHQが頭に来て、執筆を止めるように和辻先生を恫喝したのですが、和辻先生は

「自分は歴史的事実を書いているだけだ」といって全然相手にしなかったのです。


◆真珠湾攻撃の総責任者、山本連合艦隊司令長官は誰より開戦に反対でした。

阿川佐和子さんの父上で志賀直哉のお弟子さん、阿川弘之氏の三部作、

山本五十六」「米内光政」「井上成美」は、最初は少し取っつき難いかも知れませんが、

是非、一読を勧めます。

戦前ですから、日本国憲法第九条など存在しない。

帝国陸海軍は国民が納めた税金で軍艦や飛行機や戦車を造り、

いつでも戦争ができるように訓練していた時代ですが、この3人は英米相手の戦争など

絶対反対、という主張を命懸けで通した人達です。

山本五十六は、若い頃、ワシントンに駐在武官というのが昔はいたんですね。

大使館に、軍人が駐在していた。当然英語は堪能だし、山本は好奇心旺盛で、

アメリカ中を旅して見て回ったぐらいですから、アメリカの工業力が如何に日本と

桁違いにものすごいか、よく分かっていました。

たまたま、開戦時に連合艦隊司令長官だったから、開戦といわれたら、

職業軍人として、闘うことを考えなければいけない。奇襲攻撃を行って、

なるべく早くアメリカと講和に持って行くよう外交努力で収めるしかない、

ということにしたのですが、真珠湾の計画を立て、細部を詰めながら、

海軍の親友に戦艦長門から手紙を書き、

「自分の思想(対米開戦などもってのほか)と正確に180度反対の事に全力を注ぐのは誠に変な気持ちだ」

という意味のことをはっきり述べています。


米内光政海軍大将は内閣総理大臣になった人ですが、本当はそんなのなりたくなかった。

元来寡黙な読書家で論理的・合理的な思想の持ち主でした。

日独伊三国同盟も、対米英開戦にも大反対で、今で言う閣議の席上、

「本当に開戦となったら、勝敗は海軍にかかっているが、勝てるか」と訊かれたら

勝てる見込みは、ありません。そもそも日本海軍は米英を敵に回すように建造されておりません。独・伊にいたっては、問題になりません。

と言いきった人です。この頃世間の合理的思考の出来ない、特に右寄りの人が

毎日、海軍に押しかけて「お前らそんなにアメリカが怖いか!」とものすごい剣幕で、

米内のような発言をすると「国賊」と見なされて、生命の危険があったのですが、

絶対に対米英戦争には反対、と言い続けました。


井上成美は、過激なほどのリベラリストかつ合理的・論理的思考をする人でした。

あまりにも海軍上層部がアホなので、もしアメリカ・イギリスと戦争になったら、
「敵は本土爆撃が可能。帝国海軍は恐らく全滅。アメリカは新兵器(原爆)の開発が可能。」

と結果的に全部が的中するわけですが、そういう趣旨の論文を執筆して、提出したら、

予想通りに、上から睨まれ、現場の第一線から遠ざけられ、

江田島の海軍兵学校の校長になります。

戦争が始まり、英語は敵性語だから、英語の授業は廃止しよう、と

部下の教官たちが会議で決めて、最後に校長たる井上に「これでよろしいでしょうか?」

と井上に意見を求めたら、それまでずっと黙って聞いていた井上は、
全くよろしくない。米英軍と戦火を交えることになっても、

依然として英語は世界共通語である事実に変わりは無い。

そもそも、世界の何処に、英語が分からない海軍士官がいるか。

英語一つ習得しようとしない人間を、海軍は必要としない!

と机を叩いて主張し、英語教育が続行されたというエピソード。

さらに終戦時米内光政が天皇陛下から直々に海軍大臣になってくれと言われ、

米内が次官は井上しかいない、というので、教育に情熱を持ち政治には関わりたくない

井上成美を説得したのですが、そうしたら、本来海軍の先輩であり、上司である

米内大臣に次官の井上が、特に特攻攻撃が行われるようになってからは

顔つきが変わり、
大臣、手ぬるい!一刻も早く戦争を終わらせないと。このような悲惨なことが許されると思ってるんですかっ!

と怒鳴りつけたそうです。正しいと思ったら絶対遠慮しないのですね。

そんな井上ですが、終戦後は「責任を感じる」と言って横須賀の漁村で

子供達に英語と音楽を教え、奧さんにもお嬢さんにも先立たれて

30年間の長い間、極貧のまま(年金も辞退したのです)、一切公の場に姿を

現しませんでした。「他人様の前に出られる立場ではない」というのです。

生命を賭して、戦争を止めようとした軍人がいた、のですね。

今思い出しましたが、「硫黄島からの手紙」の栗林忠道陸軍大将もまた

山本と同じようにアメリカ駐在武官でした。如何に空しい戦争であるか知りながら

玉砕せざるを得ない運命に追い込まれたというのは山本五十六も同じです。

この三冊の本は、勧めますねえ。

特に米内光政。一番穏やかですが、肝心なところは見ているのです。

毎年「理想の上司」のアンケートがあり、芸能人がトップにきますが、

もしも、若い人全員が「米内光政」を読んだら、絶対、米内が一番になると思います。

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